時間学公開学術シンポジウム2017

多様な窓からこころを覗くー脳機能、脳構造、心理学から見えてくる心の時空間ー

 

日本時間学会が共催した、『時間学公開学術シンポジウム2017 多様な窓からこころを覗く―脳機能、脳構造、心理学から見えてくる心の時空間―』を下記の要領で開催しました。

講師の先生方をはじめご参加下さった皆さま、会場となった山口学芸大学の関係者の皆さまに心より御礼申し上げます。
日時:平成29年6月10日(土)14時00分~17時00分(開場:13時30分)
場所:山口学芸大学 A棟4F大講義室
(山口市小郡みらい町1丁目7番1号)
●講師:天野 薫 先生(情報通信研究機構 脳情報通信融合研究センター・主任研究員)
「脳活動を操作して視覚的な意識体験を生み出す脳内メカニズムに迫る」

●竹村 浩昌 先生(日本学術振興会 特別研究員(SPD)
情報通信研究機構 脳情報通信融合研究センター・特別研究員)
「白質から分かる脳とこころの仕組み」

●寺尾 将彦 先生(山口大学時間学研究所・助教)
「心理学から見えてくるこころの時空間」

主催:山口大学時間学研究所
共催:日本時間学会
後援:山口市、山口学芸大学、山口芸術短期大学

 

ポスターはこちらから↓

時間学公開学術シンポジウム2017  PDF

 

 

近年、工学的・数理科学的手法の発達に伴って、脳の活動や構造の可視化技術が目覚ましく発展し、従来では難しかった生きているヒトの脳活動や構造といった状態を客観的に観察することが可能となりました。

脳科学の多くは脳の理解の先にこころの理解をも目指しているしかしながら、脳とこころは深く関連していることは間違いないようですが、脳=こころでは決してありません。

では、脳観測の新しい科学技術はこころや意識といった主観的な体験の科学的理解に何をもたらしてくれるのでしょうか。また、従来からこころを科学的に研究することを目指してきた心理学はこのような急速に発達する周辺科学の中でこころの理解にどのような役割を担うことができるのでしょうか。異なるディシプリンで研究を進める3人の新進気鋭の研究者にそれぞれの研究トピックをご講演いただきました。

 

まず、天野薫先生(情報通信研究機構 脳情報通信融合研究センター 主任研究員)のご講演では、ヒトの脳活動を非侵襲的に変化させる方法を用いて脳活動を任意に操作することで変化する主観的体験についての研究をご紹介いただきました。デコーディッドニューロフィードバック(DecNef)と呼ばれる機械学習を利用したニューロフィードバック法を利用して、脳活動を潜在的に操作することによって主観的な体験を変容させる研究が紹介されました。また、脳律動の周波数帯域の一つであるα波を外部から強制的に変調させることにより、α波と関連が深いとされてきたジター錯視と呼ばれる現象が変調されることが報告されました。これらの報告は脳活動を操作することで主観的体験が変化することを見出したものであり、脳とこころの因果関係に迫る発見であると言えます。

次に竹村浩昌先生(日本学術振興会特別研究員SPD 情報通信研究機構 脳情報通信融合研究センター 特別研究員)のご講演では、MRIを用いた新しい白質計測法と解析法の原理や、それを用いた白質の情報伝達経路の研究が紹介され、脳構造が私たちのこころや健康とどのように関わっているのかについて、専門的な用語を必要以上に用いることなく容易で明瞭な説明でご紹介いただきました。これまで脳構造は死後脳を用いた解剖によってしか観察することはできず、生きている状態での構造の観察はできませんでした。そのためこころと脳の構造との関係はほとんどわかっていませんでした。竹村先生の研究によって今後この二つの関係の詳細が明らかになってくることが期待されます。

右:天野先生 左:竹村先生   ↓

 

講演中の寺尾先生 ↑

最後に寺尾将彦先生(山口大学 時間学研究所 助教)のご講演では心理物理学と呼ばれる心理学の手法を用いて、脳内の不安定な時間情報から私たちが実際に感じることができる主観的な「こころの時空間」が作り出される仕組みについての研究が紹介されました。講演では、これまでの脳研究の発展により、脳内ではすでに物理的な環境の時間情報は失われていることがまず紹介され、私たちが主観的に体験している時間は環境の時間でも脳内の時間でもないことが指摘されました。そして、視覚情報処理系に存在する複数の処理経路のうち、過渡的応答を示す経路の活動を選択的に弱めることにより、100ms程度の時間長の見えが短くなる現象が紹介されました。さらに、短い物理的時間を不安定な脳を用いて安定的に知覚するための仕組みとしてベイズ推定を組み込んだ挑戦的なモデルが紹介されました。

 

一般の方々には思っていた心理学とは違ったとの声を多くいただきましたが、そういった方々に基礎科学としての心理学を紹介できたことは非常に有意義であったと思います。

本シンポジウムには、研究者だけでなく一般の方々も非常に多く参加されていました。全く手法の異なる複数の先端研究を同時に紹介するという趣旨の学術シンポジウムということで、どの講演も非常に高度で多くの方々になじみの少ないものであったにもかかわらず、多くの反響があり、会の最後に設けられた質疑応答の時間だけでなく会の終了後にも多くの質疑や議論がなされました。

そこでは、各講演者への個別の質問や議論に加え、こころを理解するにはマルチディシプリナリな手法とそれらから眺めた統合的な視点が必要であることがよくわかったとの声を複数いただくことができました。

このことから、日本時間学会の会員の皆様に複数の分野からある事象を眺める研究領域のあり方の一つを紹介するという本シンポジウムの目的を十分に果たせたのではないかと思われます。

 

会場を埋め尽くした聴衆 ↓

 

 

 

 

 

 

芒種 第二十七候 梅子黄(うめのみきばむ)

 

平成29年6月10日(土)~11日(日)の両日、

山口学芸大学を会場として開催された、日本時間学会第9回大会は無事閉幕しました。

遠方よりの前泊組の先生方を始め、日本各地から多くの学会員の皆様にご参加頂き

本当にありがとうございました。

また、会場をご提供頂いた山口学芸大学様、準備から撤収まで大変お世話になりました。

この場を借りて心より厚く御礼申し上げます。

 

なお、大会の様子は改めてご報告申し上げます。  (学会事務局)

 

総会後の記念写真 ↓

特別講演の長山雅晴先生(北海道大学電子科学研究所教授)を囲んでの記念撮影 ↓