会員各位

日本時間学会第10回記念大会は無事に閉幕致しました。

会期中2日間に渡って、全国各地よりお集まり頂いた会員の皆様、

本当にありがとうございました。

心より御礼申し上げます。

大会終了後、理事の植村恒一郎先生より、珠玉のエッセイを頂戴しましたので

皆様にご披露したいと存じます。

 

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日本時間学会の面白さ

日本時間学会理事 植村恒一郎

 

私は今、千葉大学で行われた日本時間学会・第10回大会が終わって、帰宅する電車の中にいる。例年そうなのだが、今年もまたとても面白く充実した学会だった。私は10年にわたって1回をのぞくすべての学会を聴講してきたが、なぜこの学会は面白いのか、そして「時間」をテーマにする学問とはどういう特徴があるのか、ちょっと考えてみた。

まず、記念講演やシンポジウムがとても充実していることは言うまでもない。テーマは毎回、天文学、生物学、スポーツ医学、実験心理学など多岐にわたっており、それぞれの分野で最先端の話題が、今それに取り組んでいる日本の第一線の研究者によって語られる。今回は、「世界の標準時と原子時計最先端」の講演もあった。通常、研究者でも他分野の学会を聞くことはできないし、聞いても専門的すぎて分らないことが多い。しかし本学会のシンポは違う。細部は別としても話のポイントは分かるし、何よりもめちゃ面白い。その理由は、語り手が一流の学者だからというだけではなく、「時間」という問題が各分野で問題となるその在り方が、その分野の科学の通常のコンテクストを超えざるをえないため、学者自身が自分の専門科学的コンテクストを超えて、一般性のある言葉で語らざるをえないという点にあることに、今回、気が付いた。つまり、専門科学者が自分の専門科学コンテクストを超えなければ、問題そのものを語れないのだ。これは、素人向けに分かりやすく啓蒙的に話すということではない。たとえば、今回の原子時計の講演で初めて知って驚いたのは、最近のノーベル物理学賞には原子時計がらみの受賞者が異様に多いことである。なぜなのか。それは、より精密な時間が測れることで、まったく新しい探究と応用の分野が次々に生み出されるからである。時計の精度が二桁増すことは、それ自体がノーベル賞に値する仕事なのだ。「時間」が科学に関与するとはこういうことなのかと、私は驚嘆した。日本時間学会には、学者だけでなく、セイコーなど時計会社の専門家もいるからこそ、この講演が実現したことがとても嬉しい。

シンポ以外の一般研究発表についても、発表者が、専門科学的なコンテクストを超えることがしばしばおこる。その結果、それぞれの分野の学会にも参加している私たちは、自分の専門学会に比べると、日本時間学会の発表は、どこか「ざっくり」していて、何となく「素人くさい」と感じることがある。しかしそれは、日本時間学会の欠点ではなく、逆に、大きな利点と美徳でもあるのだ。というのは、時間が各分野で問題になる仕方は、それぞれ大きくコンテクストが違うので、発表者は誰もが、自分の専門科学コンテクストを前提に問題を立て、それを疑わずに研究を進め、発表する。しかし実際は、発表者自身がそれと意識しないまま、探究の過程でそのコンテクストを超えてしまっていることが多い。問題の捌き方が「ざっくりした」り「素人くさく」なったりする理由はそこにある。専門領域のコンテクストとタームだけでは、問題が捌けないのだ。発表の直後、会場から素朴で意外な質問が出て、発表者自身が「いや、それは考えてもみませんでした」と自らのコンテクストの狭さに、初めて気が付くことも多い。通常の専門学会では、質問と討論は、細部の事柄についての技術的なやり取りになることが多いのだが、そこが違う。

「時間」は、人間の生存そのものに深く関わる普遍的な主題である。だから「時間」が各分野で現われる姿は、それだけ多様であらざるをえない。「時間」を真に問題化するためには、専門家は、自分の専門的コンテクストの相対的位置を知るために、そのコンテクストの外に出て「素人」にならなければならない。私は哲学が専門であるが、師であった哲学者・大森荘蔵は、私の院生時代にこう言っていたのを思い出す。「君たちは、学会で、素人的な素朴な質問を聞くと、「無知だな、トンチンカンだな」と専門家的優越感を感じるでしょうが、素人の質問をバカにしてはいけません。専門家の質問よりも本質を突いた問いであることが多いのです」。「時間」をめぐる学際的な探究は、専門家もまたいったんは「素人」の視点に、つまり生活世界の立場に立たざるをえない。日本時間学会の面白さと素晴らしさは、まさにそこにあると思う。

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